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《英語史》

松浪有(編) 『英語史』 英語学コース[1] 大修館書店

渡部昇一 『講談・英語の歴史』 PHP研究所

中島文雄 『英語発達史 改訂版 岩波書店

中尾俊夫、寺島迪子 『図説 英語史入門』 大修館書店

橋本功 『英語史入門』 慶應大学出版会


『英語史』 英語学コース[1]

編者:松浪有
発行社: 大修館書店
発行年: 1986
レベル: 易
備考: R先輩に「古英語の文字がさっぱり読めません」と言ったらこれを紹介された

 
タイトルは「英語史」だけなので中級以上向けかと思ったが、実際には入門書だった。実物が来てからよくみたら、この「英語学コース」というシリーズは「実際の授業(教養課程)で使えるテキストとして新たに生まれた英語学の入門シリーズ」とのことだ。道理でやさしいと思った。
まえがきでも「専門用語はなるべく使わず、わかりやすく」と書かれている。
いちおう練習問題もついているが、授業で使うことが前提なので解答はついていない。図書館での蔵書自体ほとんどないので、『日英語対照による英語学概論』のように解答が図書館にあるという事態も期待できない。

内容としては、外面史(当時の社会状況など)の割合が多いような印象を受けた。古英語、中英語あたりは一見すると世界史の教科書みたいなページも。
文法の説明などもあるが、小難しい活用表は巻末の付録に追いやられているので、頭が痛くなりにくいのではないか。

あと、入試には関係ないが、古英語の文字の解説が詳しいので、中・古英語を講読する人はその部分だけでも見ておくといいだろう。

ページ構成がちょっとだけ変わっていて、ページ右4分の1くらいが余白となっていて、重要語句が本文中に登場すると余白部分にも重要語句が書かれる。初学者には、どこ・何が重要なのかわかりやすくていいかもしれない。
なお、余白が多いということは、単純計算でページの文字数が減るということで、つまり厚み(200ページ弱)の割りに早く読めるというわけだ。「英語史の本を1冊読んで勉強した気になりたい」という場合にもおすすめできる。

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『講談・英語の歴史』

著者: 渡部昇一
発行社: PHP研究所(PHP新書)
発行年: 2001
レベル: 易
備考: Y先輩のおすすめ

英語史といっても、この新書は外面史(社会状況とか)が中心で、内面史はほとんど出てこない。活用の喪失とか、構文の変化、そんなものを期待するのはお門違いとさえ思える。

英語史のテスト前とかで切羽詰っている状況ではお勧めできないが、英語史関連の読み物(あるいは英語史の入り口として)として読む分にはなかなか楽しい。他の本ではあまり触れない、後期近代の文法書の流れも押さえられている。(これは『英文法を知ってますか』でさらに詳しく書かれているし、英語学体系の『英語学史』も同じ著者である)

また、「日本では〜時代にあたる」とよく対照させているので、日本史が得意な人には理解を助けるだろう。(私は日本史さっぱりなので、あまり役に立ちませんでしたが……)

もう一つの留意点としては、やや右翼的(?)な書き方がされていることもある。中国語、韓国語はそれぞれシナ語、コリア語と書かれていたり、「戦前に台湾に大学を作ったのは……」と戦前の行為を正当化する記述があったりと、そういうのが肌に合わない人もいるかもしれない。

 

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『英語発達史 改訂版

著者: 中島文雄
発行社: 岩波書店(岩波全書セレクション)
発行年: 2005(改訂版)
レベル: 普通
備考: 英語史ゼミで先生から再版のお知らせがあった

 
英語史のさまざまな事柄に関して、事項別に並べた本。長らく絶版になっていたが、2005年に岩波全書セレクションで復活した。

かなり内容が濃いので、概説書ではあっても入門書ではない。
英語史のU先生は、「寝転んで読むには不向きだけど、英語史を専門とする人はこれ1冊の内容くらいは全て押さえておかなければならない」とおっしゃっていた。

とはいえ、大学によるが院試では英語史はほとんど出ない分野なので、受験に使うだけなら全部を覚える必要はないと思う。(無論、覚えるに越したことはないのだが)
特に音変化は詳しいのだが、ここは興味がなければ「へぇ〜、英語の音(おん)って変わりやすいんだな」くらいで軽く読み飛ばしてしまってもいいかもしれない。院試に限っては、英語の音声の変化よりは生成文法でもやった方が得点につながるんじゃないのかなぁ……。

 
入試と全然関係ない内容だが、個人的にはギリシア借入語の解説が詳しくて嬉しかった。英語では、ギリシャ語を借入する際、慣例的にラテン語を通すということも初めて知った。ギリシャ語の授業で男性名詞語尾は-osだと習ったが、ギリシャ語起源の英単語はラテン語の男性名詞語尾-usになっているのを不思議に思っていたが(たとえば、hippopotamusはhippos(‘ιππος)「馬」とpotamos(ποταμος)「河」なので、ギリシャ語そのままならhippopotamosになるはずだ)、やっとその謎が解けた。

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『図説 英語史入門』

著者: 中尾俊夫、寺島迪子
発行社: 大修館書店
発行年:1998
レベル: 易
備考: 英語史ゼミでの紹介

 
古英語・中英語・近代英語・現代英語の4時代に分けて、それぞれ事項を記述した本。こういう書き方はsynchronic(共時的)と言うそうだ。『英語発達史』みたいに各事項を時代別に見ていくのはdiachronic(通時的)。

タイトルにつけている通り、図・写真が多くて楽しい。ただ、印刷の都合なのか(?)、紙が厚手のツルツルした紙なので鉛筆では書き込みにくいし蛍光ペンも乾きにくい。

内容は、外面史・内面史のバランスがよく取れていると思う。図説なので、OEなどの活用表もしっかり出てくる。
「TEA TIME」コーナーは上級者向けとあるが、院試で使うなら押さえておいた方がいいだろう。

他に特筆すべき点としては、現代英語の取り扱いが比較的しっかりしている。たとえば、音変化は近代英語までしか触れていないものが多い中、この本では現在進行中の変化(happyの語末音が変化しているとか)の記述もある。
また、各時代の有名な文学者もまとめてあるので、整理がしやすい。

余談をひとつ。おバカな私は、ずっと寺島先生の名前を「柚子」(ゆず)さんだと思っていたが、正しくは「迪子」(みちこ)さんである。読み間違えていてごめんなさい。

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『英語史入門』

著者: 橋本功
発行社: 慶應義塾大学出版会
発行年:2006
レベル: 易
備考: SKZ氏, KZN氏の紹介

 
事項別に英語史における発達を表している。
完全な通史ではないので、これでいきなり英語史を学び始めるよりは、中尾俊夫『英語の歴史』(講談社現代新書)などで一通りの流れを押さえてからの方がいいと思う。
全体的にコネタがちりばめられ、楽しく読めるので、英語史に興味をもつとっかかりにするにもいいかも。

この本の特徴としては、他の本で扱っていないような項目が詳しく説明されていることである。(もっとも、どの本も同じことしか書いてなかったら買う意味ないのだが)
文字・書体の歴史は、興味深いテーマであるのに、普段学習する際に触れることがないせいか、他の本では全く触れないか、数ページ言及する程度である。しかしこの本では、1章分をあて、当時の書体のサンプルがあるので分かりやすい。大学・大学院で実際に写本を目にするなら、一見の価値あり。

あと、おそらく橋本先生の専門なのだろうが、「旧約聖書におけるヘブライ語の影響」という章もある。これは、英語史の本では初めて読んだ。

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『英語史で解きほぐす英語の誤解 納得して英語を学ぶために』

著者:  堀田隆一
発行社: 中央大学出版会
発行年: 2011
レベル: 易(とっても簡単)

「英語は簡単だから国際語になった」「英語は変化していない」などの誤解について、英語史の知識を利用して解説していく。
専門知識が無くても読める。たぶん高校生でも読める。

堀田先生のブログ(毎日更新)Hellogもおすすめ。


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